国広さんと長尾さんと足利さん

 今年サービス十周年を迎えたゲームに『刀剣乱舞』というものがある。
 日本刀剣に宿る付喪神で戦闘部隊を組んで、歴史を改変しようとする勢力の壊滅を目指すゲームだ。細かくは違うが大体合ってると思う。
 チュートリアルでは初期刀として最初の一振りを五振りの中から選ぶことができる。数多くの刀剣がある中でも、そのチュートリアルで選べる、全てのプレイヤーが目にする五振りは特別な立ち位置にあるといっていいだろう。

 その中の一振り、山姥切国広。本作長義を写した刀であり、刀工・国広による名刀である。元々は個人所蔵であったが、二年ほど前に公益財団法人足利文化財団が取得することになった。
 この度、徳川美術館所蔵の本作長義と同時に展示する企画が行われたのは、その山姥切国広の取得記念であるらしい。二年経っている辺りに、相当な調整と計画と規模を感じる。

 私自身は、さほど刀剣に理解はない。ゲームにおいては山姥切国広を初期刀として選びはしたが、性格採用であり刀の良し悪しはよくわからない。
 しかし、山姥切国広を愛している友人が行くという。ならば私も絶対に行きたいに決まっている。オタクはオタクが愛に狂う様を見ることが何より好きだ。

 というわけで、足利市駅である。盛大にやっていただいており、これにはオタクもにっこり。

 観光者向けの看板はあるが、足利はそんなに観光向けの場所ではないと思う。以前来た時も大変のどかであり、普段はまったり時間が過ぎていそうな空気感がある。
 実際、駅周辺にいる旅行者は殆どが今回の山姥切展示会を見に来ている様子だった。美術館以外に小学校跡もあり、歴史的価値や文化的価値はあるが観光というと若干の語弊を感じる。

前回来た際に通った橋は工事中だった。

 だが、だからこそいい場所である。派手なコンテンツが存在しないからか土地柄か、本来得体のしれないオタクジャンルである刀剣乱舞を受け入れ、群がるオタクを受け入れる度量がある。何故か山伏国広の服を着たスタッフらしき人もいる。全力で支援していただいてありがとうございます。

来たよ!
地下には撮影スポットもある。
イベント描き下ろしもある。顔がいい。刀を見せてくれてるのもいい。

 私は友人と違って真面目なプレイヤーではないが、それでもこうして見ると何だか感慨深くなる。監査官として本丸に来た長義が、頭隠して柄隠さずだったばっかりに秒で身バレしていたのが昨日のことのようである。あれから随分経ったなぁ。

 展示は非常に丁寧な作りであった。
 堀川国広の来歴を辿りつつ、如何にして本作長義が長尾顕長に下賜され、山姥切国広が作られるに至ったかを刀剣の鑑賞の仕方や国広の作風を展示しながら説明していく。
 そうすると、山姥切二振りが並んだ展示室に辿り着く。刀剣にわかであっても何処を見たら良いかが分かりやすい。

 ……あれ? 思ったより全然違うな?
 何となく、長尾顕長さんが長義を賜ったことが嬉しすぎて、本作長義が好きすぎて作られた写しというからにはもっと本作長義に寄ってると思ったのだが、見比べてみると山姥切国広はゴリゴリに国広の絵柄だ。
 描き下ろしイラストからも違いは感じられるが、実物はもっと違う。この二振りを擬人化するとなるほど、長義は本音をくるんで隠すめんどくさい男になるし国広は卑屈になりながらもアイデンティティは譲らないややこしい男になる。なんかそんな感じの刃だった。刀を見てキャラ造形に説得力を感じるとは思わなかった。

 そんな堀川国広さんだが、美術館の説明によると刀工として実績を増やしつつ、なんと還暦で足利入りしたらしい
 それから山姥切国広を作り、弟子と作品を増やして当時にしてはかなり長寿な八十過ぎまで生きたのだとか。人はいつまでも輝ける素晴らしい前例である。

 そういえば山姥切が山姥切なのは、山姥切を斬った逸話があるからである。しかしこの山姥を斬った山姥切は長義と国広どちらであるかは暫くふわっとしており、最近はどうやら国広の方なんじゃないかみたいな流れらしい。
 前回の山姥切国広単独展示の時は山姥切伝説の説明が確か設置されていたのだが、今回は山姥切には一切触れられていなかった。徳川美術館からのお客さんである長義と山姥切問題で荒れかねない刀剣乱舞ユーザーへの配慮を感じる。ありがとうございます。

 来るのは二回目であるが本当に、足利はおおよそ観光地らしくない。
 住民が思い思いに建てたような店が並び、遠くまで景色は広がり、食事一つするのにもお土産一つ見繕うのにも苦労する。
 だが、だからこそ店はどこも目新しく、空は突き抜けて青く、人は親しげで豊かだ。いい場所だな、と思う。
 何はなくともまた行きたい。あそこは人が好きになれる都市だ。

新しくできたというお店のマスコット。サービス精神増々のカルガモ。おいでよ足利!